Vol.9
Vol.9

「労働基準法第41条第2号の管理監督者について」 

労働基準法(以下、労基法)に定める管理監督者とは、法41条第2号の適用範囲に定められ、「事業の種類にかかわらず監督者もしくは管理の地位にある者」と明記されており、同条では管理監督に該当する場合を含む旨を定めており、この中には法定労働時間を超える労働に対する時間外割増賃金の適用除外も含まれています(ただし、深夜割増賃金については管理監督者であったとしても適用除外されない点に注意)。管理監督者の範囲に係る行政解釈は、概ね以下のように整理できます。

1.  その職務の内容が、ある全体部門の統括的な立場にあるか否か?

(経営の方針の決定に参画するもの)

2.部下に対する労務管理において、一定の決定権・裁量権を有しているかもの部下に対する人事考課、機密事項に接しているか否か(労務管理上の指揮権限を有する者)

3.対象者の出退勤についての規制の有無がないか(出退勤に関する厳格な管理の有無がないか)

4.当該対象者に対し管理職手当ないし、役職手当等の特別手当が支給されていること

そしてその手当と時間外労働の時間等との関連の有無(地位に応じた報酬か否か)

以上の要素を総合考慮し判断するものです。

よく見られる就業規則の事例としては、

(管理監督者の適用除外)

箪○条 課長以上の管理職は、労働基準法第41条第2号に定める管理監督者にあたるため、勤務時間・休憩・休日、時間外勤務および休日勤務に関する規定を適用しない。同対象者の詳細については、社内規定において定める。

このような取扱いが一般的であった中、企業実務に対し大きな衝撃を与えたのが、日本マクドナルド事件判決(東京地判平成20年1月28日です。実は、同判決が登場する前から行政解釈および下級審裁判例では「管理監督者」の範囲を限定的に解しており、前述のような規定を設けていたとしても、行政・裁判所ともに実態に応じて判断し、会社による取扱いを否定する行政指導・判決が出されていましたが企業実務上、広く認知されていませんでした。そのような中、同判決をマスコミが取り上げ、大々的に報じたことにより、社会的にも「名ばかり管理職問題」が大きな注目を浴びることになりました。

同事件の概要と判決内容は以下の通りです。同事件は、店舗の店長が自らを「管理監督者」に該当しないと主張し、会社に対し時間外割増賃金等の支払いを求めたものですが、裁判所の認定事実によれば同店長にはパート・アルバイトの採用権限当然としており、時給の決定権もありました。また、これらパートの昇格、人事考課から昇格決定まで店長にその判断権限が付与されていました。その他、店舗損益計画を店長自ら作成し、状況変化に対応して修正ができること、食材、人件費等の支出決済権限が付与されていること、さらに店舗営業時間の変更権限などが付与されていることなども併せて認定されています。これらの認定事実から、裁判所も「店長は店舗運営において重要な職責を担っていることは明らかである」とし、店舗の労務管理や経営上相応の権限が付与されていたことを認めました。

その一方で、同地裁判決は「店長の職務権限は店舗内の事項に限られるものであって、企業経営上の必要から、経営者と一体的な立場…重要な職務と権限を付与されているとは認められない」と判示しています。そのような認識に至る前提として、同判決は、同社の店長には正社員の採用権等が付与されていないこと、店長は正社員の人事評価に関与するだけで最終的な決定権限がないこと、全国展開する飲食店という性質上、店舗で独自メニューを開発したり、原材料仕入れ先を自由に選定したり、商品価格を自由に設定したりすることが予定されていないこと、店長は被告の企業全体の経営方針の決定に関与するものではない等の事実を指摘し、結論として店長の管理監督者性を否定し、同人の請求を認めました。

 その後厚生労働省が平成20年9月9日付で「多店舗展開する小売業、飲食店業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化」(基発0909001号)と題する新通達を発出し、指導強化に乗り出しました。以前はいわゆる部長、工場長などの役職者を月給で残業手当が支払われていないことが多くありましたが、以上の判決と照らし合わせると、すべてが労基法に定める適用除外の管理監督者に該当するかは、かなりハードルの高い判断が必要になってきました。ある日突然に起こりうる想定外の事態を想定して、一度専門家にその判断をしてもらうなどの検討が必要なのではないでしょうか。



セクハラ 労災積極認定 厚労省、年内にも基準緩和

 厚生労働省は6月23日、セクシュアルハラスメント(セクハラ)による精神疾患を労災認定に結びつけやすくするよう、認定基準を見直す方針を決めました。同省は職場での「心理的負荷」について、セクハラに関してはストレス強度(1〜3の3段階)を一律「2」(中程度)と評価しており、特別な事情がない限り労災と認めていませんでしたが、年内にも基準を見直し、継続的な身体接触など悪質事例は最も強い「3」とするよう改めることになりました。

 現在、セクハラは一括りに「2」と評価されており、特別の事情があれば労働基準監督署の判断で「3」に修正できますが、判断基準は「セクハラの内容、程度」とあるだけで修正例は多くありません。このため有識者検討会は、強姦(ごうかん)や本人の意思を抑圧してのわいせつ行為、身体への接触が継続し、接触は単発だが、会社に相談しても対応、改善されない、言葉によるセクハラが人格を否定するような内容を含み、かつ継続したなどの事例を挙げ、それらに該当すれば「3」と判定すべきだとしました。

 厚労省によると、10年度に各都道府県の労働局に寄せられた2万3000件超の相談の過半数がセクハラに関するもので、11年連続最多となっている一方、09年度の労災申請のうちセクハラがあったとするものは16件で、実際に労災認定されたのは4件。05年度からの5年間でも、認定は21件にとどまっています。

 セクハラで受ける精神疾患は非常に他人からは理解、判別し難いものなので労災としての認定は割合として非常に低いものでしたが、この基準緩和は労災認定件数に変化をもたらす可能性があります。結果論であったとしてもセクハラを許しているということが会社としての倫理を問われかねません。やはりする側、される側とではあまりに感じ方に違いがあるのがセクハラです。十二分に気を付けなければいけません。

事務所通信一覧に戻る
お問合せ
吉浦経営労務事務所
448−0813
愛知県刈谷市小垣江町
中伊勢山10−1
TEL:0566−24−1483
FAX:0566−24−1546