Vol.3
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サービス残業について

最近、労働基準監督署や、労働局の労働紛争における行政あっせん「紛争調整委員会のあっせん」、労働審判の司法手続きを行う裁判所を通じての元従業員の代理人である弁護士から、残業の未払い賃金の元従業員からの請求が増してきました。残業の割り増し賃金が正しく計算されていれば良いのですが、会社によって計算のルールもさまざまです。今回は、労働基準法が記す、残業時間について触れてみたいと思います。

労働基準法による労働時間を厳密に争うと以下の点を根拠として追及されるケースが多くみられます。

@  残業の取扱いに当たり、15分未満は切り捨て、15分以上は30分に切り上げて処理している例が見受けられますが、残業時間を切り上げたりして、30分単位に整理するのは違法とされています(労基24、昭63・3・14基発150・婦発47)。残業時間の端数を1残業時間ごとに切捨て、切り上げ計算するのは、賃金計算期間でみると従業員に不利になる場合がありますので、たとえ四捨五入方式による場合であっても許されません。残業時間に端数が生じた場合、1分といえども労働時間に変わりありませんので、分単位で集計しなければならないとされています。

A 1か月における時間外労働、休日労働、深夜労働の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合も同様です。

B  残業時間の切り上げが認められるケースとして、1か月における時間外労働の時間数の合計に30分未満の端数がある場合には、これを1時間に切り上げることは認められています。30分未満を切り捨てた場合、法定の割増賃金が支払われなくなり不利になりますが、常に切り捨てられているわけではなく30分以上1時間未満の端数がある場合は、1時間に切り上げられますので有利になります。このような方法が許されるのは、その月の合計時間で行う場合だけです。

労働時間の法的根拠とは

労働時間立証のための証拠方法として最も典型的なものは、タイムカードです。もっとも、タイムカードに打刻された出社・退社時刻は、就労の始期・終期と必ずしも一致するとは限りません。例えば、出社してすぐにタイムカードを押す従業員や、その後、実際に業務を開始するまでに相当程度の時間の経過があるというケースがあります。

そこで、タイムカードの記載から正確な労働時間を算定できるか、言い換えれば、実労働時間を推定することができるかが問題になります。割増賃金支払請求の事案、打刻の始業時間と終業時間が労使主張で異なります。そこで、労働時間をどのように算定すべきかが問題となります。この点、厚生労働省は、平成13年に「労働時間の準正な把握のために使用者(事業主)が講ずべき措置に関する基準について」(平13・4・6基発339)で労働時間を適切に管理することを使用者の「責務」である、と明言しました。

 

 労働基準法が賃金全額支払の原則をとり、しかも、時間外労働等について厳格な規制をしていることからしても、使用者(事業主)には従業員の労働時間の管理責任があると考えることが妥当であり、実際、近時の多くの裁判例は、従業員が合理的な根拠を示して労働時間を算定した以上は、事業主が有効かつ適切な反証をしない限り、従業員の労働時間算定が適正なものであると判断する傾向にあります。

 この点、厚生労働省は、先述の「労働時間の適正な把握のために使用者(事業主)が講ずべき措置に関する基準について」(平13・4・6基発339)において、使用者の責務としての労働時問の把握算定方法は、原則として、「@使用者(事業主)が自ら確認する、Aタイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認する」のいずれかによるべきものとしており、近時の多くの裁判例も、職場においてタイムカードによる労働時間管理制度が導入されている以上、タイムカードの記載が実労働時間と異なることを示す特段の事情がない限りは、タイムカードの記載に基づき労働時間を推定することとしています。

 この場合、例えば、所定の終業時刻よりも遅い時刻にタイムカードが打刻されていた場合には、残業をしていたとの事実上の推定が働くことになり、これを覆すためには、事業主の方で「従業員が職場にはいたが労働をしていなかったこと(親睦会や私用など)」を立証しなければならないことになります。つまり、労働審判など裁判所での残業時間の算定は、残されたタイムカードをもとに割り出されるケースが多いのです。便利なタイムカードですが、これらの判断を想定して、事業主は労働時間の把握をしなくてはなりません。打刻のルールも労使とも今後は、しっかり設ける必要があります。



 ※今月のコラム

 平成22年度も3月を迎えいろいろな節目を迎えました。これから新年度を迎える上で特に今、私が気にしているのは学生の新卒求人です。

 先月の事務所通信では新卒(卒業後3年以内)の学生の就職を促す助成金をいくつかご案内させていただきましたが、テレビ、新聞等の各メディアによれば今年度の大卒者の内定率は12月時点で68.8%と、過去に例を見ない内定率の低さが助成金設置の起因になっているのは想像できることです。

 今の新卒の彼らは「ゆとり世代」と呼ばれ非常に冷遇されています。実際に就職した後でもコミュニケーション能力の欠如、マニュアル主義、仕事への積極性の低さからか、離職率が高いというのは事実としてあります。ですが彼ら自身がこの時代を選んで生まれてきたわけではありません。実は以前の学生と比較すると真面目で勤勉な学生が多いとも言われていますから、「ゆとり世代」と呼ばれてしまう彼らは被害者かも知れないですよね。何とか将来を背負っていく彼ら若者を長い目で見て育ててあげたい、簡単に切り捨てないであげたいものです。

 遥か大昔から「今の若者は…」と言われてきたのはよく言われる話ですから、もしかしたら私たちが受け容れる器量が狭くなってきているとも思えるのです。求人では「経験あり」の求職者を求めがちですが、失敗や叱責なしで即戦力として活躍できる学生はそうそういるものではありません。まずは職場に慣れさせ上司の模倣をさせるところから始めて、ゆくゆくは共に私たちも成長していきたいものです。しかしながら、なかなかうまくいかないのが現実でして。本当に困ったものです…。

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