Vol.12
Vol.12

『営業社員など事業場外労働みなし』とは

 使用者は、原則、労働者の労働時間を把握し、算定した時間に応じて賃金を支払う義務を負っています。しかし、労働者が事業場外で労働する場合、営業社員が自社の商品を顧客に売り込みに行く場合や、出張の場合には、労働者がいつ食事等の休憩をしたのか、何時間休憩をとったのか、私的活動をしていたかどうかなどを使用者は具体的に把握することができません。このような場合、使用者に労働時間把握義務を強いるのは、困難になります。
 そこで、労基法は例外的に第38条の2において労働者が事業場外で労働したとき、労働時間の算定が困難な場合にはみなし労働時間制を採り、使用者の労働時間算定義務を免除しています。事業場外みなし制の要件は以下のものとされます。

(1)事業場外労働であること

 事業場外労働みなし制の適用を受ける場合には、当該業務の全部または一部が「事業場外」で行われていることが必要です。労働者が本来所属している「事業場」から場所的に離れていることにより、所属組織の通常の指揮監督(労働時間管理体制)から離脱しているか否かで判断すると考えます。また、事業場外労働みなし制は事業場外で従事する業務が恒常的なものだけでなく、臨時的な業務であっても適用されます。

(2)労働時間を算定し難い場合であること
 事業場外労働について「労働時間を算定し難い」場合でなければなりません。「労働時間を算定し難いとき」に該当するか否かを判断するうえで、裁判で「みなし労働時間制」が認められなかったケースを紹介します。

 仲介業を営む会社の営業社員の裁判では、始業時間・就業時間の把握にタイムカードを使用し、事業場外労働みなしが適用されていると会社から説明がありましたが、タイムカード通りに業務を行っていたのだから、タイムカードで記された所定時間外労働の部分は、時間外労働賃金を請求した事件です。
 社員の主張が認められたケースの争点は、@会社の指示により、所定始業時刻前に出勤し、タイムカードを打刻し、当日の営業計画を立て、所定始業時刻の朝礼を済ませた後、事業場外で業務に従事していた。A携帯電話の所持を指示され、上司や同僚の指示を受け、上司にその都度経過を報告し、相談しながら、事業場外の業務に従事していた。B事業場外での業務の後は、そのまま帰宅することなく、必ず会社に立ち寄り、営業担当日報を提出して、当日の業務内容や翌日の予定を上司に報告した後、タイムカードを打刻して帰宅するのが常態であったなど、という点です。
 これらを判断し、裁判所は「労働者を指揮監督下にあったものと認めるのが相当であり、事業場外労働時間の算定が困難であったということはできない」と、事業場外労働みなし制の適用を否定しました。

 情報誌の広告営業社員の事業場外労働みなし制が争われたケースとしては、この社員の営業活動については、毎日、報告書の提出をし、訪問先のすべてについて、訪問時刻と退出時刻、訪問の回数、見込み、結果、今後の対策、翌日の訪問先の報告などを常に上司から指示が出されていました。よって、労働時間が算定し難い「事業場外労働みなし制」ではなく、時間外労働賃金を請求したケースでも、裁判所は前日の報告書提出、当日の報告書などで上司が訪問時間や退出時間が把握できる状態であることなどから、事業場外労働みなし制の適用を否定しています。
 金融業の営業社員のケースでは、@毎朝8時15分から朝礼後、業務が行われていたこと。A事業場外の業務終了の都度、会社が貸し与えた携帯電話での報告をし、各営業社員の行動計画を会社は記載し、常に把握していた。B基本的に18時くらいに帰社し、事務所の掃除をし、18時30分に退社するよう会社から指導されていたこと。C常にタイムカードでの出退勤がされていた。これらを根拠に、事業場外労働みなし制は否定されています。
 実務対応として、会社が「労働時間を把握し難い」とは、タイムカードを打刻する出退勤の管理(出退社の時刻の管理)、当日の業務計画(予定表)業務日報の存在、携帯電話での連絡・指示・報告の頻度、上司による業務の指示などを根拠として、判断されます。営業社員に携帯電話を持たせて事業場外で労働させ、事業場外労働みなし制を適用する場合には、携帯電話が緊急連絡用であることを明確にすることが重要であり、最近では、GPS機能を使って随時位置情報を確認したりしないことがポイントとなります。

 このように、出退勤の管理や、業務計画書や業務日報の存在、携帯電話での連絡、上司の指示があれば必ず事業場外労働みなし制を適用できないというわけではありませんが、それなりの予防策が必要になることは、言うまでもありません。以上のことを怠り、民事訴訟になった場合には、事業場外労働みなし制の適用が認められる可能性が低いことを十分認識しておく必要があります。
 事業場外の所定労働時間みなし制は、労働基準法38条の2第1項より、労使間での協定を締結することも必要です。その定めた労働時間が8時間を超える場合は36協定の届出と割増賃金の支払いが必要になります。
 不安を感じられましたら、専門家である当事務所をお尋ね下さい。 



過労死:労災認定企業名の開示を命令 大阪地裁

 従業員が過労死などで労災認定された企業名を不開示とした大阪労働局の決定は違法として、「全国過労死を考える家族の会」代表の寺西笑子さん(62)が決定の取り消しを求めた訴訟で、大阪地裁は11月10日、不開示の取り消しを命じる判決を言い渡しました。弁護団によると、労災認定を巡って企業名の開示を命じた判決は初めてとのことです。

 原告側は09年、大阪労働局に02〜08年度の労災補償給付の支給決定年月日と企業名の開示を求め、労働局は決定年月日を開示したほか、職種や疾患名などの一部の情報を任意開示しましたが、企業名は個人情報の特定につながるとして、不開示としていました。判決は企業名を公表したとしても「一般人が他の情報と照合しても、企業名から特定の個人を識別するのは不可能」として、情報公開法の不開示情報に当たらないと指摘し、不開示は違法と判断しました。

国側は「企業名が開示されれば社会的評価が低下する」と主張しましたが、判決は「取引先の信用を失ったり、就職を敬遠されたりする恐れは可能性に過ぎない」と退けました。判決は、労働局の資料に企業名の記載欄がなかった04年度以外を開示対象としました。大阪労働局は「今後の対応については、判決内容を検討し、関係機関とも協議して判断したい」としています。

 原告側の寺西さんの夫は過労が原因で亡くなったとのことですので、企業側の不都合な情報が隠ぺいされるのは耐えきれないことだったと思います。その反面、企業側にしてみればこのような事実があった場合、隠すことが出来ない時代になってきたと言えるわけです。高い企業モラルが求められる中で私たちも身を律していかなくてはなりません

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